路地裏シネマ

映画の感想、評価

映画「情婦」(1957)感想 85点

情婦 [DVD]

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ネタバレなし

見所①「アガサ・クリスティの名短編を映画化」

2017年12月8日に「オリエント急行殺人事件」がリメイクされるが、その畳みかけるようなどんでん返しのすごさでは「情婦」も決して負けていない。
原作はアガサ・クリスティの短編「検察側の証人」。一般的な知名度では『そして誰もいなくなった』や『アクロイド殺し』の方が知られているだろう。それゆえにラストについて知っている人も少ない。
映画「情婦」こそネタバレなしで見てほしい作品である。

ちなみスタッフロールとともに「結末は決してお話にならないように」というナレーションの忠告が入る。
それくらい衝撃度がすごい。

見所②「どんでん返し法廷ミステリー」

映画の舞台となるのは基本的には法廷である。新たな証拠や新たな証言が次々と飛びだし、被告の有利不利がぐるぐると変わる。
映画は2時間ほどで若干長めだが、まったく飽きさせない。法廷ミステリーが好きなら絶対に観るべき作品だろう。
そしてラストにどんでん返しが次々と巻き起こる。満足度の高い作品になっている。

見所③「ビリー・ワイルダーらしさも満載」

殺人事件を扱った法廷ミステリーというと、どこかどんよりとしたものを感じさせるが、そこはビリー・ワイルダー。
腕利きの老弁護士ウィルフレッド卿が、やたらとキュートだったり、コメディっちくな作品にもなっている。
看護師から注射器をもらって葉巻にさすウィルフレッド卿のシーンなど。看護師とのかけあいもおもしろい。

あらすじ

老弁護士ウィルフレッド卿が病院から退院して帰ってくると、ある殺人事件の弁護を頼まれる。それは裕福な未亡人が刺殺されたというものだった。被告は、未亡人と知り合いでもあるレナード。真実追求のため頭を働かせるウィルフレッド卿だったが、レナードの妻であるクリスチーネの様子がおかしい。
果たしてウィルフレッド卿は無罪を勝ち取れるのか。そして衝撃の真実とは。

注:ここからネタバレがあります
ネタバレあり

感想(ネタバレあり)

愛すべき白黒映画

「情婦」は白黒映画であるが、これほどモノクロが似合う作品もない。「情婦」が公開された1957には、主流ではないものの、すでにカラー映画はあった。
法廷の厳格とした雰囲気を表現するのには、白黒の方がいいのは明白だろう。

なぜこの映画に騙されるのか

情婦のどんでん返しが成功しているのは「解」が与えられているからである。
クリスチーネが偽証している理由→愛人マックスがいるから、というように納得できる答えがある。
多くの人は、一度謎が解明されてしまえばそれが嘘であれ、そこで思考を停止してしまう。これはどんでん返しをはじめとしてミステリーではよく使われる手法だ。
「愛人マックスの存在」というのは問に対する答えであり、もしこれを問として「本当に愛人なんていたのか」とまで広げられると、騙されなかったかもしれない。

ウィルフレッド卿が病弱なわけ

ウィルフレッド卿がもし健康な若者であったらどうだろうか。そちらの方が絵的にカッコイイと思われるかもしれない。
ウィルフレッド卿が病弱なわけは、ラストにかかっている。ウィルフレッド卿は、光を使うことによってレナードを殺すようにクリスチーネをそそのかす。
もし彼が健康で正義感あふれる若者であれば、その行動には違和感が生じていただろう。
ウィルフレッド卿は病弱であり老人である。偽の手紙を使ったりと狡猾だからこそ、この行動には違和感がない。むしろ「よくやった」と思わないだろうか。
法廷では勝ち、真実では負けたが、それでもウィルフレッド卿は勝った。この事実が大切なのだ。

ちなみにウィルフレッド卿が出した眼鏡の光は、クリスチーネへの「合図」とも読みとれる。俺が無罪にするから殺せ。
真実はさておき、クリスチーネは賢い女性であるとだけ言っておく。

もし、レナードに愛人がいなかったら?

クリスチーネはレナードを刺すことはなかった。レナードもクリスチーネも遺産を受け取り幸せに暮らしていただろう。
「どんでん返し」としてならそれでもいいかもしれないが、観客としてはすっきりしない。
「愛人」を出すことによって、ビリー・ワイルダーはレナードを殺させたのだと僕は思っている。

ラストがすごいのは「どんでん返し」だけじゃない

あのラストの間に、大量のどんでん返しが起こった。
さらに、主人公ウィルフレッド卿は暗躍し、悪はより悪らしさを見せ、クリスチーネは演技力の高さを披露する。
ラストがすごいのは「どんでん返し」だけじゃない。一気にキャラの魅力を放出させ、主人公が策をもって悪を処刑するからである。
紛れもない傑作映画だろう。

検察側の証人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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