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映画の感想、評価

映画「素晴らしき哉、人生」(1946)感想 90点

素晴らしき哉、人生!  Blu-ray

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ネタバレなし

巧い映画

「素晴らしき哉、人生」は感動映画ということで広く知られている作品で、確かに感動する。感動するんだけど、それ以前にめちゃくちゃ巧い映画だと思う。
観ていて何回もすごいと思ったのは、この作品が初めてかもしれない。
構成と演出もさることながら、伏線が飛び抜けている。シナリオ的な伏線ではなく比喩の伏線のことで、イメージの転換が飛び抜けて巧いんだよ。これについてはネタバレありの感想で語ろうと思う。

話がおもしろい

「素晴らしき哉、人生」のストーリーを大雑把に説明すると「人生に絶望した男が自殺しようとしたときに天使が現れ、自分の生まれていない世界を見せる」という話。
このあらすじだけでも既におもしろい。
手塚治虫や藤子不二雄が書きそうな話だけど、ブラックユーモアでは全然ない。かといって命の大切さを説くような教訓めいた話でもない。
ユーモアのあるヒューマンドラマ。
主人公は偽善的な人間ではなく、どこにでもいる「困っている人を見過ごせない」人間。
手に届く範囲で素晴らしい人間だから、共感もしやすい。

感動する

「素晴らしき哉、人生」はアメリカ映画協会が選ぶ「感動の映画ベスト100」で1位を取っている作品。
ひねくれ者以外は、普通に感動するんじゃないかと思う。
あと、結構笑える映画だと思う。
ヒロインが母親に「なにしてるんだ」と聞かれて、「口説かれてるの!」と答えたり、ユーモアセンスも飛び抜けていた。

感想(ネタバレあり)

比喩の転換について

何度も言うと「素晴らしい哉、人生」は巧い作品。僕みたいな素人でも凄さがわかるくらい明瞭な作品とも言える。

イメージの転換の話。わかりやすいところで言うと「ラスト」
みんなが家に押し寄せてジョージのためにカンパするシーン。
このラストは、単体で見ると、そこまで凄くはない。困った善人に助けられた人たちが恩返しをする、というもの自体はオーソドックスなものだろう。

ただこのラストはWでイメージが掛かっていて、それゆえに最高のラストになっている。
一つ目は、中盤のシーン、町のみんなが住宅ローンの返済を迫るところ。ここでは困ったみんなに対してジョージが金をあげている。
このシーンは完全にラストと対比になっているのがわかると思う。画面的にもほぼ同じような構図になっている。
この中盤のシーンがあるからこそ、黒に白が映えるように、ラストがさらに輝く。

二つ目は、ジョージが生まれこなかった世界。みんなは明らかに不機嫌で、楽しくなさそうだ。
それがラスト、元の世界では、みんなが笑顔になっている。ジョージのもとに集まり喜んでカンパしている。
「生まれてこなかった世界」がなければ、ラストのみんなの笑顔はただの笑顔にしかならない。

イメージの転換はラストだけじゃない。作中で何十回もされている。挙げるだけキリがないんだけど、できるだけあげてみる。

たとえば弟が大学から帰ってきたあと、弟が事業を継ぐ気がないことを知ったジョージは、メアリーのもとへ訪れる。
あの「口説かれてるの!」のあと、ジョージは帰っていこうとし、メアリーは音楽の鳴っているレコードを叩き割る。
「切れて音楽をやめさせる」というのは、終盤でジョージが切れて、自分の娘に対してピアノをやめさせる、ところと似通っている。

ジョージが子どものころ水に落ちるシーンは、ダンス中にプールに落ちるシーンとも繋がり、終盤の川に飛びこむシーンへ。
メアリーが藪に隠れて消えるシーンは、ジョージの生まれてこなかったシーンへ。
ガウワーに殴られて耳から血が出るシーンは、終盤の唇から血が流れるシーンへ。

これ以外にもめちゃくちゃ細かいところで、比喩のイメージが転換され重なりあっている。

この映画は、天使がいなくても成立はしている

天使が出てくるにも関わらず、この映画はリアリティに満ちている。
それは作中の細かい描写もさることながら、話自体が天使がいなくても成立しているからだ。ストーリー的には、ジョージが川に飛びこむ前、コートのポケットにあるズズの花びらに気づき、やはり死ぬのをやめようと思う流れでも違和感はない。
ストーリー的には天使がそこまで重要ではないため、リアリティを損なわずにすんでいる。

この天使自体の設定も個人的には素晴らしいと思った。
序盤で主人公の死を観客に予言させ、少年自体を過ぎるとほとんど出てこなくなる。「ジョージがどこで人生に絶望するのだろう」と疑問に思いながら、映画を楽しめる。ほとんど忘れたころに天使が出てくるのは巧みといってもいい。
もし、いちいちナレーションが出てきたら作品の質はかなり落ちていただろう。

名シーンが多い

好きなシーンがいっぱいあるんだけど、特に最高なのは、子どものメアリーが、ジョージの左耳に「大好き」というシーン。この場面を撮りたいためにジョージの左耳を聞こえなくしたんじゃないか、とさえ思う。
ジョージとメアリーが結婚して家でキスしているところを見て、ドライバーが警察官にキスするところも笑える。
父が死んだあと、ポッターに立ち向かうジョージがかっこいい。

まとめ

期待していた「ジョージが生まれてこなかった世界」は、そこまでおもしろくなかった。ありきたりな感じだったのが残念。ただ、それ以外が素晴らしすぎるので90点つけた。90点以上つけるつもりはさらさらなかった。いままで「好きな映画は?」って聞かれても迷っていたけど、これから「素晴らしき哉、人生」と即答できる。