映画「未来のミライ」感想 76点 

未来のミライ (角川文庫)

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「未来のミライ」は大衆向けはしないけど観る価値はある作品

事前に評判があんまりよろしくないことを知りつつ見ました。
というのも自分が細田守監督にまったくハマっていないこともあり、「細田監督好きな人が低評価なら逆におもしろいのでは?」と思ったからですね。

結論からいうと「『未来のミライ』はおもしろいんだけど、おもしろさのポイントがかなり特殊なため人を選ぶ作品」っていう感じではないでしょうか?
個人的にはおもしろかったのですが、大衆向けでもないですし、子供向けでもありません。

シュルレアリスムでいうところの自動筆記に近い脚本だと思います。
また。この映画を「家族」の話だと思うのは違くて、タイトル通り「時間」の話です。

エンタメを見ようとしている人にはまったく向いていません。物語はあるんですが、むしろアンチ・ロマンとかそっちの方に近いんじゃないかな。
この映画をあらすじとしてまとめようとするとかなり難しいですよね。
たとえば、この映画は「主人公のくんちゃんに妹の未来ちゃんができて、その未来ちゃんがミライからやってくる」という部分があります。
では、ミライちゃんが未来からやってきた理由はなんでしょうか。

ここでたいていの脚本はもう何十回やったのかわからない「家族の危機」だとか「世界を救うため」とか持ち出してきます。「未来のミライ」をつまらないと思う人は、この手のありふれた物語だったら楽しめた人も多いような気がしますね。
でも、ミライちゃんがわざわざ未来からやってきた理由は「出しっぱなしのお雛様をしまうため」です。

未来からやってくるという壮大な出来事が、小さい物語に収束してしまいます。恐らくエンタメを求めている観客の期待とは真逆のものですよね。
ただ、こういう風に物語が展開したせいで「この映画がどこへ行くかわからない」という予測のつかなさが誕生しました。この予測のつかなさを「おもしろいと思うか」で、評価が変わってきますね。

エンタメ的な映画や漫画を見るときに、ストーリーの流れって観客はわかってしまっているんですよね。バカみたいに思われるかもしれないんですが、ヒーローものだったら「ヒーローが悪役を倒すところ」を見たいから見ているんですよ。
おもしろいというのは「自分が予想している展開に沿ってくれるか?」なんです。
そういう意味では、この映画はおもしろくありません。
予告編を見たときに「ミライちゃんがお雛様をしまうのが見たい!」と思う人なんて皆無でしょうから。

ただ、僕は映画は予測がつかない方がおもしろいと思います。デヴィッド・リンチやゴダールの映画を見たときの謎のワクワク感が好きな人も多いでしょう。
だから、「未来のミライ」は、「この映画って○○だよね」ってまとめようとする人には向かないし、映画の出来事に対して物語的な理由を求める人には向かないんじゃないかな。

その場その場で流れる映像を楽しめるかにかかってきます。
少しネタバレになってしまうのですが、個人的には、子供のときの母親と会って何をするかと思いきや「家の中を散らかしまくる」ところとかおもしろいと思うんですよね。
ほとんどの脚本家はこんな話にしないでしょうから。まず、発想的に出てこないんじゃないかな。

「未来のミライ」における時間

この映画に描かれているのは時間ですよね。お母さんの若いころにこういう話があって、ひいおじいさんの若いころにこういう話があって、未来ちゃんが大きくなったらこうなっていて……という過去と未来すべての時間。
その時間のなかで一つでも違っていたら、今は成立していなかったという話。
ひいおじいさんが夢中になってかけっこをしなかったら、くんちゃんも未来ちゃんも生まれていなかった。
テーマとしてはありきたいだとは思うんですが、それでもこの種のテーマは普遍的に良いと思います。

「4歳の男の子に感情移入できない」と否定する人もいると思うんですが、この映画には多角的な視点があるんですよね。くんちゃんだけでなく、お父さんお母さんミライちゃん、犬のゆっこから物語が見れる。
くんちゃんが自転車に乗れてお父さんが泣いたシーンとか、その場だけでは嬉し泣きに見えるんだけど、映画を最後まで見るとシーンの意味合いがまた違ってくる。
この映画のラスト近くで見せられた過去と未来の映像は、一つ一つそれ自体が物語として起点を持っているものです。ネタバレになりますが、「鳥が猫にやられて好きだった猫が嫌いになった」という過去はお母さんのものです。だけど、それからお母さんがどうしたかは語られません。ただ、そういう時間があっていま、くんちゃんと未来ちゃんのお母さんとして存在している。
もし、このエピソードがなかったら犬のゆっこじゃなくて猫が飼われていたでしょう。
これは映画に限ったことじゃなくて、現実世界もそうですよね。過去にあった出来事が少しでも狂うだけで、いまは変わってしまいます。
そういうことを改めて考えさせられる良い映画だったと思います。

コメント

  1. kato_19 より:

    「未来のミライ」の感想読ませていただきました。
    否定的な感想が多いなか肯定的な感想は貴重ですね。
    特に『この映画には多角的な視点があるんですよね。』という点はすごく同感です。くんちゃんが主人公だからって、くんちゃんに感情移入するする必要はないですよね。
    自分はこの作品は、お父さん視点=細田監督視点の作品だと解釈しているのですが、くんちゃんん冒険物語として理解しようと思うと確かに混乱するかと思います。ですから、ロジ子さんのような見方にはすごく共感しました。
    自分もこの作品は面白いと思うのですが、たしかに面白いと思うポイントが特殊ですよね。だから面白さを伝えるのが結構難しいです。高評価の人でも面白いと思うポイントが結構違う気がしますしね。
    ちなみに自分も感想を書いているのですが、さらに特殊な解釈なのかなぁ・・・とちょっと自信なくしています(笑)でもこの作品が、観客の予想を崩していくところが面白いという点は同感だったので思わずコメントさせていただきました。
    https://kato19.blogspot.com/2018/07/moraino-mirai-movie.html

    • 二匹 より:

      katoさん、コメントありがとうございます!
      ブログも読ませていただきました! 「未来のミライ」と「夢十夜」を結びつけているのを見て、なるほどなあと感心しました。
      独自の視点を持っていてとてもおもしろいと思いました! 確かにとりとめのない短い話の連続という意味でも似ていると思います!
      ちなみに僕は、時間の考え方が保坂和志に似ているなあと少し思っていました。

      僕が思うに「未来のミライ」みたいな映画が好きな人は、「未来のミライ」を見ないような気がしています。
      中華料理食べに来たのに、フランス料理が出た、みたいな笑
      客層とズレてしまっているのですが、僕は素直に良い映画だと思っています。

      改めてコメントありがとうございました!
      また、katoさんのブログにもお邪魔します!

      • kato_19 より:

        こちらこそコメントありがとうございました!(なんだか少し強要してしまった感じで恐縮です)
        『僕が思うに「未来のミライ」みたいな映画が好きな人は〜』の部分、確かにその通りだなぁと思いました。保坂和志さんの作品は読んだ事がないのですが、日常を描くような作風なんですね。ちょっと見てみたくなりました。ありがとうございました。

        • 二匹 より:

          いえいえ、ブログおもしろかったです! そういう視点もあるんだなぁと参考になりました。
          「過去の色彩が独特なのはアルバムの写真の記憶が投影されている」とか、表現的にも視点的にも好きです。

          保坂和志も物語の起だけばらまくタイプなので、未来のミライに似ているかなぁ、となんとなく思いました。

          日常の中でも、物語の起承転結まで行くことは少なくて、「もし、こうしてたらああだったんじゃないか?」の繰り返しだと思うんです。
          そういう意味で、未来のミライはやっていることはSFでとりとめがなくても、現実を強く感じさせるリアリティがあったんじゃないかなと考えています。

          長くなってすみません。
          また、何かあったら遊びに来てください!